UK9報道部

良質な「コタツ記事」を目指します。海外ニュースがメイン。

ロシアを利する可能性も。ロシア人観光客のビザ発給禁止にEUの意見分かれる

 

なんと久々の投稿になってしまいました。

えーっと、前回記事は書いたの5月だったみたい…。

なんでご無沙汰していたかといいますと、まずイギリスにいる娘が一時帰国して、そこからなんかルーティンが変わってライターの仕事が滞ってしまったので、6月ぐらいからそっちを通常モードにもどし、ブログはサボってました(へへへ)。加えて持病のストレートネック(スマホ首と一般に言われるやつ)が悪化し、ずっとPCの前にいると肩や腕まで痛くなってしまうので、原稿料がもらえないブログはお休みしてしまっていたのでした(悲)。

 

浮いた時間で何してたかというと、ネトフリ見てました!もう、『呪術廻戦』 から韓ドラ、『ストレンジャー・シングス』と、見るわ見るわ(笑)。『進撃の巨人』も最終話まで一気見だーっ、と思って見まくったら、なんとファイナルシーズンの最終話までいったのに終わってなかった(衝撃っ)。最後10分で全然終わる感じないのでもしや…と思ったら案の定でしたわ。続きが年末ぐらいからあるようです。それ、最初に行ってほしかった。そのころには話忘れてるのほぼ確定。おばさんなので、間が空くと前の話を見直したりするんですが、あれだけ長いともう戻れん(涙)。

 

さてさて、今日のネタですが、まずはちょこっと前に書いたものを掲載。

newsphere.jp

ウクライナ人が苦しんでいるときに、ロシア人が欧州のシェンゲンビザを利用して、海外旅行を楽しんでいるのはけしからん!ビザ発給はやめるべきだ、とゼレンスキー大統領が言い、一部のEU加盟国がそれを支持してEUの会議に議題として持ち込んだというお話です。この記事の時点でも意見が国によって分かれていたわけですが、ついに結論がでました。結果からいうと、観光ビザの全面禁止には至らず。EU内で妥協して、ビザ発給の手続きをこれまでより難しくし、時間もかかるものにしましょうということで、とりあえずまとまったようです。

 

この決定に反応して出された記事がこちら。

time.com

 

www.cnn.com

www.themoscowtimes.com

欧州でも依然として意見は分かれているということですね。タイム誌によれば、ロシア人が隣国フィンランドにお買い物旅行に来るというのは侵攻前からよくあることだったようですが、現在制裁で西側の物資が手に入らないので、買い出し旅行が行われているそうです。また、航空機が止められてしまったのでフィンランドエストニアを経由した海外旅行も盛んで、侵攻以来1000万人がこの方法で海外に出たということです。かなり多いですね。

 

一般人ならいいでしょ、と寛大な気持ちにもなれるんですが、なかには観光客を装ったロシアの工作員の場合もあり、懸念されているということ。さらに、現在観光旅行を楽しめているのは都市部の経済的に余裕があるロシア人で、戦争の影響を実感していない層です。こういった人が簡単に国外に出られなくなれば不自由を感じ、その不満が露の政策に反映されるという期待もあるそうです。バルト三国ポーランドなどはビザ全面禁止に賛成だったので、EUとしての決定には不満で、独自に厳しい制限をするという態度も見せています。国境を接しているので切実でしょうね。

 

一方ドイツ、フランス、スペイン、ギリシャなどは、一般人を擁護する姿勢を見せ、ビザ発給を禁止すれば反体制派の活動の妨げとなるとも述べています。ロシアではパスポート保持者は全国民の3分の1以下で、果たして効果があるのか疑問という声もあり。むしろビザ禁止で「欧州人はロシアが嫌い、だから戦争をしかけられている」というロシア政府のプロパガンダに利用される恐れさえあるとしています。

 

CNNによると、ハンガリーなどが強烈にEUによる一斉禁止に異議を唱えたようです。EUのボレル安全保障政策上級代表は、この件では欧州の結束を見せることが大事で、妥協の産物とは言えビザ取得を難しくしたことは評価すべきという考えです。基本的に政府と関係のない人と人との交流は続けるべきとしており、ロシア人を国内に閉じ込めてしまうことで、逆に国民の西側への反発&政府への支持が高まり、若い世代を民主主義から遠ざけてしまうことにも成りかねないとしています。

 

モスクワ・タイムズに寄稿したケナン研究所(ロシア研究で名高い)のアンナ・アルトゥニアン氏は、EUのやろうとしていることはロシアを利するだけだと厳しい意見です。そもそもロシア人は侵攻以来国外に大量流出しており、むしろロシアは観光ビザで海外に出る頭脳流出を心配しているはずだと指摘。ビザを制限すればロシア政府の仕事の代行になってしまうと述べています。

 

さらにロシア国民は、侵攻当初はロシア政府が国境を閉鎖して国民を閉じ込めることや西側製品を禁止することを恐れていたのに、今では欧州がロシア人の出国を困難にし、民間企業にロシアからの撤退や販売停止を促す状態になったと指摘。これでは「西側はロシアを嫌っている」というロシア政府が望むメッセージを送ることになるとしており、この部分では独仏などの「効果は疑問」という考えからさらに進んで「効果なし、むしろ悪影響しかない」という意見です。

 

アルトゥニアン氏は、ロシアはすでに権威主義から全体主義体制に移行したとし、国内で大規模な抗議活動が見られないのは脅迫と孤立という全体主義政府の古典的戦術があるからで、ロシア人を国内に閉じ込めても人々が民主的な変化を求めることはないとしています。ということで、EUのやっていることはプーチンをうまく罰することができない鬱憤をロシア人にぶつけているだけで、政策的な効果やコストを全く無視していると主張しています。うーん、確かにそう言われるとそんな気もする。ただ、アルトゥニアン氏から具体的にもっといい策が出ているわけではなく、単なる批判になっているのは残念です。

 

ちなみに、すでに1200万人のロシア人がシェンゲンビザを持っており、26カ国の国境を越えられる状態だということ。ここの部分はどうなるんでしょうか?ビザ切れまで待つのかな?ロシア政府は、欧州の対応には報復もあり得ることを示唆しており、相変わらずの強気です。

ウクライナ関連、個人的に頷いたツイート2選

私、イーロン・マスクほどではないんですが、結構ツイッターをまめに見ております。このブログでもいろいろ引用してきました。こんなご時世ですので、タイムラインが2割コロナ&7割ウクライナで染まっている状況。侵攻から数か月経ち、ロシアの蛮行による写真等がかなり出回っていて、正直塀の向こうから応援しつつそういったものを見て流すことがつらくなっています。どうせなら、この戦争をどう終わらせるのか、終わるとどうなるのか、のほうに注目したい気持ち。そこで、タイムラインのなかから見つけてなるほどと思ったツイートを今回もご紹介します。

 

まずはこちら

ヴォロディミル・イェルモレンコさんというウクライナの哲学者の方ですね。以前日本の新聞かなんかでインタビューを見た気がします。ざっと訳していきます。

 

これ(ロシアの行い)は単なる大量虐殺ではない。これはここウクライナの地で歴史上なんども繰り返されたジェノサイドだ。なぜそうなるかというと、それが一度も適切に非難されず罰せられることもなかったから。「もう二度と起こさせない」は、この悪には適応されなかった。そのルーツはスターリンレーニンロシア帝国にある。

 

罰せられず、非難されず、悔改められず、虐殺者は「もう二度としない」の代わりに「繰り返すことができる」と言っている。そしてその通りにできているのだ。彼らの言葉使いを見てほしい。ヘルソン農民からの「余剰の収穫の没収」、これはウクライナの大飢饉の原因となったスターリンの食料の「徴発」に似ている。

 

Zは邪悪(Zlo)を意味する。Zはゾンビの悪を意味する。繰り返される悪だ。何度でも戻ってくる悪だ。邪悪の悪循環だ。

 

「偉大なロシア文学」はこれをよく知っている。ロシアの文学者は逃げ場のない繰り返す悪とその悪循環を皆書いてきた。

 

これがロシアの歴史の悪循環だ。逃げ場のない野蛮な残虐行為。「進歩的な」マルクス主義を構築しようとして野蛮な残虐行為に終わったのだ。寡頭的資本主義を構築しようとしたが同じ結果に終わっている。この「逃げ場のない」ことがいつも犯罪につながるのだ。繰り返される罪に。

 

哲学者の方なので回りくどい感じもしますが、私の解釈では、結局ロシアというのは失敗や自国の悪行を全く反省することなく同じことを繰り返してきており、これが今回のウクライナ侵攻→蛮行の数々に続いているということだと思います。もちろんこんな体制を許し続けてきたのはロシア人でもあり、内側からビシっと叩いて批判し罰するという仕組みが働かなかったのが問題だと言えますね。また外からの批判も中途半端でした。ウクライナ侵攻に関しては、国際社会からも絶対に罰を与えて、「繰り返す」ことをできなくしなければいけません。

 

と思っていたら、こんな記事もありました。

www.nytimes.com

 

朝日新聞の記者さんが概要を書かれているので、こちらで読まなくても大体わかります。

こちらもやはり、例え国際社会が痛みを被っても耐えてロシアに戦果を絶対に持たせて帰らせてはいけないという意見です。やったもん勝ちが身についているので、やって損したと思わせなければまた懲りずに繰り返すということですね。完全同意。今回ばかりはお茶を濁した停戦は国際社会全体の危機を招きますね。

 

次のツイートですが、こちらはロシアのニュースサイト、Meduzaの編集者、Maxim Trudolyubovさんのものです。ロシア研究で有名のケナン研究所にも所属されており、ロシア人のようです。

ロシアの上位にある主戦論者の年齢は70歳ぐらいだ。ウクライナの防衛と主要な政府機能の担当者は40代、30代だ。ロシアの主要な役人の平均年齢は64歳だが、ウクライナは44歳。この戦争は世代間の戦いなのだ。

 

ロシアの年配チェキスト(国家保安機関に勤務する人)は、ウクライナの新世代エリートだけでなく、プーチン世代にとって代われるはずの若いロシア人をも破壊しようとしている。プーチンが前者破壊に失敗することは確実だが、すでに後者に関しては達成している。

 

プーチンの世代は、年配チェキストの掘った穴からロシアを引き上げられる可能性のある者たちを実質破壊した。ナワリヌイ(現在46歳)のようなリーダーは投獄されている。

 

チェキストは、次の世代を奴隷にするか国外追放にしてしまった。30代、40代のロシア人の多くは、泥棒政治のリーダーに仕えるか、国内外で流浪の身になった。

 

実際のところ、もしもリーダーがプロジェクトを構築し管理する経験を持ち、選挙に勝利し有権者の信任を得ていれば年齢は問題にはならないかもしれない。ウクライナの現在のリーダーたちにはまさにそうなのだが、ロシアの指導者たちにはそこが欠けている。

 

もしロシアの40代、30代がウクライナ側と同様の経験をしていたなら、そもそもこんな戦争は起こらなかったはずだ。

 

今でも私はロシアの20代、30代がロシアで実権を握るチャンスがあることを望んでいる。いつかの時点で。ただ、確信はない。

 

西側では、富を求めることにおいて年配者と若者を表向きに戦わせる世代間の「戦争」がよくある議論のポイントになる。特に左派においてだ。しかし、この戦争では、それが現実のものとなっている。

 

日本でよく老害という言葉が使われますが、まさに今のロシアがそうなっており、戦争が終わっても若い人がしっかり育っていないため、まともな政治も期待できないということかもしれないですね。前に調べたのですが、ロシアでは反政権的な候補者はもともと選挙にでられないように工夫されていますので、野党でさえもプーチンに明らかに都合が悪い人はすべて出馬できないようになっています。出馬できても、結局少数派で力が持てないように塩梅されているので、チャレンジ不可能です。

 

うまく戦争が終わったとしても、やはりロシアが変わるというのはなかなか難しく、例えプーチンが退場しても、次がまともになるとは限らないですね。なかなかに闇は深いロシアです。

 

 

張子の虎かも?ロシア軍はなぜグタグタだったのか

ロシアのウクライナ侵略戦争が始まってもう2か月ですが、ロシア軍の力が思ったほどではなかったという感想が各所から漏れています。

そこで本日の記事はこちら。

www.newyorker.com

ニューヨーカー誌が、アメリカの元陸軍大佐で元米シリア特使のジョエル・レイバーン氏にロシア軍のパフォーマンスについてインタビューしています。この方現在はシンクタンク、New Americaの特別研究員だそうです。Q&A形式になっていますので、手短にまとめたいと思います。

 

質問1:ウクライナでなぜロシアが劣勢にみえるのでしょう?

2008年のグルジア侵攻以来、これまでかなり長い間、ロシアは規模の大きい戦闘をしていなかった。そのため隠れていた体系的、制度的弱点が見えてきた。グルジアの時と同様に、指揮系統の不統一、ロジスティクス的弱点、訓練不足でモチベーションが低く統率も不足した兵士たち、質の低い将校たち、非常にお粗末な作戦設計と計画能力などが上げられる。航空作戦と地上作戦の同期化を含む、軍内部、軍団間の統合も不十分だ。

 

ここ数年改革に乗り出しており、シリア、リビアコーカサスでの作戦で成果を出したと見えたが、振り返ればそれらは非常に小規模だった。各段に規模の大きい今の戦いで、弱点が明らかになっている。

 

質問2:ウクライナでの大きな失敗は?

作戦設計に最初から欠陥があり、「ウクライナを解体し政権を変える」という任務に対して小さすぎる侵攻軍だった。そのうえ十分な兵站も備えていなかった。

 

質問3:その失敗は単に能力がないためか、それとも判断を誤ったからなのか?

判断ミスもあるが、組織的にキャパがない。敵地の奥深くまで攻め込む作戦を支援する組織的能力がないだけでなく、あらゆる種類の補給と戦闘支援を部隊に与えることができないことがわかる。兵站が弱いのに、主攻略を4つの大きな軸に分けて地理的に広く分散させたのは大失敗だった。第一次大戦のように列車にすべてを載せて前線基地にまで輸送はできず、トラックにすべてを載せている。十分な数もなくウクライナに破壊されているので、前線部隊に必要な物資を送り続けられなかった。

 

質問4:ロジスティックス以外に強調すべきことは?

ロジスティックスや作戦設計の前に「軍の指揮官を計画や作戦遂行においてアシストするスタッフとはどのようなものか?」を問わねばならない。ウクライナでは、故障したトラックや整備不足の車両を、操作や整備の仕方を知らない部隊が運転していた。そのため多くの車両が故障して放置されていた。これにより、以前からメンテナンスを怠っていた部隊があったことが分かる。兵士に整備士としての訓練をしていなかったためだ。私は米陸軍のドイツの装甲部隊にいたが、週5日勤務のうち4日は車両の整備を行っていた。整備はそれほど必要とされるものだ。

 

ロシアは最新鋭の戦車を輸出しているが、ハリコフ、チェルニヒフ、キエフには冷戦時代の非近代的なかび臭い装甲戦闘車両で表れた。つまりロシアの軍需産業は自国の地上軍に近代的装備を与える代わりに輸出に向けられていたようだ。

 

質問4:軍事的近代化プロジェクトはウクライナとは異なる戦争を想定して行われた、とロシアは弁明することができますか?それとも失敗はもっと広い範囲に及ぶのでしょうか?

もっと広い範囲だ。ロシアは近代化プロジェクトで防空システム、精密誘導弾や弾道ミサイルを優先したが、すべて失敗している。トルコ製のドローンがロシアの防空システムの上空を通過し、空から攻撃することはあり得ない。近代化された物の品質もごまかしのようなものだ。毎年数百億ドルも近代化に費やしてきたのに15年経ってもT-72戦車の近代化、もしくは退役に手が回らないのは信じがたい。もっとも論理的な結論は、その予算の大部分が汚職で消えてしまったということだと思う。

 

質問5:ウクライナの抵抗の規模には皆驚いているが、ウクライナは誰も予測しなかった方法で反撃したのでしょうか?

それもあるだろう。2014年以来ウクライナはドンバスで能力を高めて戦ってきているから他の地域でもできるようになることはそれほど驚きではない。

 

質問6:あなたが思うにはもっと効果的な別の軍事計画が(ロシアに)あったと思われますか?

ノーだ。軍事作戦には主目的の設定が必要だ。誰もがキエフを主目的とし戦略集中を想定していたと思う。キエフへの前進以外のことは単に支援のためでなければならず、戦力の効率的な使用をするものと思っていた。侵略自体すべきではなかったが、やるつもりだったのなら、最高の装備と部隊、そして兵站能力をキエフに投入すべきだったのに明らかにそうしなかった。

 

質問7:その能力を使ってロシアがしたことは?

彼らは4つの異なる戦線に分割して能力を配置した。作戦はあまりにもひどかった。歩兵も偵察も空からの援護もなく、装甲部隊に道路をぶらぶら歩かせた。そしてウクライナ軍が対戦車兵器で一網打尽にした。精鋭の空挺部隊を連れてきて飛行場に向かって突撃させ、飛行場を解放して地上部隊を迅速投入するはずだったが、通信システムが故障して携帯電話に頼るようになった。

 

軍隊を近代化しようとして間違った人を雇うならまだしも、人も雇わず汚職で金を吸い取られるのは全く違う話だ。

 

ロシアの将校は、能力ではなくコネやひいきで昇進してきたのではないか。私は国務省でシリア関係に携わっていたときロシアの将校らと接した経験があるが、彼らの多くが今ウクライナに関わっている。シリアでは効果的な軍事作戦よりも、シリア政権や他の関係者から財産や収入を得ようとすることに重点を置いていたように見えた。彼らのシリアでの計画や意思決定も感心するようなものでもなく、それが今明白に表れていると思う。かれらは質の悪いリーダーシップと質の悪いロジスティックスを持つ質の悪い軍隊であり、非常に汚職の傾向が強いように見える。

 

質問8:ロシアはより東に重点を置き当初とは異なる計画的なアプローチを試みています。これがどのようなもので成功する確率があるかどうか教えてください。

彼らの損失は天文学的な数字だ。部隊も破滅的打撃を受けており、兵站も弱い。北部で敗北した部隊が突然東部や南東部で変身できるとは思えない。また19万人の侵攻軍の準備を考えれば、持続可能とは思えない。

 

質問9:もしロシアの軍隊が準備不足で目標を達成できなかったら、もっと極端なことをしでかすかもという意味で、心配はありますか?

 

結局ロシアはNATOのどの国とも対決をしなかった。NATOとの対決をエスカレートさせることは彼らにとっては自殺行為だ。彼らに自殺願望がないことを信じたい。もし侵略軍が代わりにポーランドに入っていたとしたら、全滅していたと思う。

 

 

ということで、専門家から見てもロシアはグダグダでこの先もうまくいかないようです。それならもっと極端なことをしでかすというのは、生物化学兵器使用とか核兵器使用になるんでは…と恐怖を感じるんですが、アメリカのロバート・ゲイツ前国防長官は確率は低いと述べてますね。

thehill.com

 

生物兵器は基本的に制御不能なのであり得ないと。化学兵器をロシアは以前に使用していますが、現時点では一部地域を除いて、ウクライナ兵がたくさんいるところはあまりなく、どこを化学兵器の軍事的標的とするのか分かりにくいと述べています。よって化学兵器の使用がそれによる国際的な影響に勝る、ロシアの戦略的利益になることは考えにくいとしています。また、化学兵器ウクライナの人々の意志を打ち砕くための手段でもありますが、すでにウクライナ人の意志は固く、化学兵器使用が彼らの意志をさらに固くする逆効果になるとも述べています。

 

核兵器使用は閾値を超えた場合の結果は重大ですが、ウクライナ東部で戦術核が使用されれば風は西から吹いているためロシアに放射能が達することになり、地理的なリスクを考えれば確率は低いとしています。

 

ゲイツさんの見方が正しいことを祈ります。ほんと、おそロシア…。

 

世界11位の経済大国だけど…。ロシア経済、実は過大評価の可能性

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ロシアのウクライナ侵攻後1か月以上が経過し、西側の制裁も徐々に効き始めているようです。

newsphere.jp

 

GDPも15年前の水準に戻ると予測されてますね。まあ、日本も失われた20年以上、って感じで景気低迷してますが…。

 

ところがロシア経済、実はこれまで過大評価されてきたんじゃない?っていう意見が出ております。

www.omfif.org

公的通貨金融機関フォーラムというシンクタンクの記事ですが、本日もざっと訳して読んでいきます。

 

フォークランド紛争など侵略戦争の多くは、国内の経済問題から市民の目をそらすために行われてきた。ロシア経済は2021年半ばまでにパンデミック前の水準を回復し、パンデミックの克服に成功しているようにみえただけに、ウクライナへの侵略は予想外であったと言える。

 

ロシアの2021年のGDPは1.65兆ドル(約200兆円)だが、かなりの部分が使途不明であるとされてきた。これはロシアの影の経済の規模が大きいため、GDPが過小評価されていることに起因する。しかし、国境を接しロシア語を話すウクライナ市民がロシアの占領に不安を抱いていることが示すように、ロシアが近隣諸国に対してその社会的経済的モデルの魅力を高めることができていないのは明らかだ。ロシアのGDPはむしろひどく過大評価されている可能性がある。

 

GDPは世界11位だが軍隊の規模は世界2位というロシアが、力強い成長を遂げているという報告に、経済学者たちはとっくの昔に眉をひそめていたはずだ。経済規模に対して軍事費が大きすぎる場合、インフラ投資、技術革新、社会支出など、他のゴールに資金が十分に行き渡らない。

 

大都市の発展、資源輸出の多さが、ロシア経済に対する過大評価を招きやすくした。チェチェンやクリミアを除けば、ロシアは連邦の地方の発展を、戦争で荒廃したジョージアのレベルにさえ引き上げることはできなかった。国境付近でロシアモデルの魅力を高めることができなかったのは、発展が不十分であることのサインだ。

 

ドネツクモルドバから分離独立したトランスニストリアなどロシアが支援する地域の経済基盤は、安くて未払いの場合さえあるロシアからのエネルギー輸入に支えられた重工業に頼るのが典型だ。このようなエネルギーの流れは代金が支払われるという幻想に基づき、ロシアのGDPに加算される。この幻想が消えるなら、ロシアとその関連する地域のGDPは下方修正されねばならない。

 

試算では、衛星国に関しては修正幅は小さいことが示唆される。しかし、ロシアが重要な衛星国でさえ近隣国と同レベルに引き上げることができないことを考えれば、ロシアにおける類似の工業地域の実際の価値はどのぐらいなのか、そしてGDPの修正はどのぐらいの大きさになるのかと考えてしまう。ロシア軍が占領したウクライナの村のアスファルト道路や街灯に感心したという逸話を考慮する以前の話だが。

 

加えて、友好的な地域においても、ロシアは主要貿易相手国ではない。例えばトランスニストリアの主要輸出市場は同盟国ロシアではなく、非友好国ルーマニアだ。

 

ウクライナでの進捗の遅れは、ロシア軍車両の整備が不十分だったためとほとんどの軍事専門家が認めている。軍の金銭の用途における意思決定者は、他の資産に投資するため自分たちのために資金を吸い上げてきた。このことはGDPの統計に表れている。このような金は、軍のアップグレードやメンテに使われたと記録されているが、GDPには二重に計上されている。軍の規模が拡大するたびに、この二重計上は増えたに違いない。

 

ロシア軍は作戦開始後数日で食糧の略奪に走らざるを得なくなった。「支払いの済んだ」物資が実際に届いていれば、ロシア軍の食糧供給はずっと良いものだったはずだ。(そういえば、ロシア軍の配給食を日本人がネットで注文すると賞味期限の新しいのが来るっていう話でソーシャルメディアが盛り上がってましたね、クフ)。

 

ロシアは近隣国を自分の勢力圏内に引き込むことができない。代わりにこういった国々は見返りの比較的少ないEUNATOに魅かれている。大きな投資という報告にも関わらず、ロシア軍がウクライナで成果を上げるのに失敗したことは、ロシアの経済成長が過大評価されていたという結論に至る。非公式経済の規模がGDPの過小評価の原因とこれまでされてきたにも関わらずだ。軍備増強で負担の多い経済では驚くべきことではない。

 

もしそうだとすれば、ロシアのエリートが侵略に踏み切ったことは、1980年代に軍事政権下にあったアルゼンチンのような経済不振の国における意思決定者と、最初に考えたよりもより多くの共通点があったかもしれない。

 

ということで、ロシアは資源に頼って国内産業の育成をしっかりせず、軍備に大金を投入、だけど中抜きするような輩が多かったので、張りぼての経済発展だったということでしょうか。だから経済が悪くなって国民にばれる前に、侵略で国力を示したかったと。

 

中国のように、経済や新たな産業に投資して国力を高め、それから軍拡するっていう方向にいかなかったのが間違いでしたかね。これから下手すると大きな北朝鮮になるとも言われており、慕ってついてきてくれる国も減るのではないかと思います。ロシア経済、今後も注視したいですね。

 

制裁で積む…。ロシア経済の行方にロシア人経済学者悲観的

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五輪終了と思ったら、ロシアがウクライナの侵略に走って世界はえらいことになっています。コロナのニュースも吹っ飛んでますね。

 

で、西側諸国はロシアへの経済制裁を決めたのですが、これについてのご意見を今日は一つご紹介。

元ツイートはロシア語です。スペインのIE大学の経済学教授、マキシム・ミロノフさんの超悲観的意見を、DeepLさんの英語訳を使って訳していきます。

 

たくさんの人が私に制裁についてのコメントを求めてきてますが、手短にいうと、見通しは最悪です。

 

最悪に輪をかけるのは、ロシアの人々、教育レベルの高い人たちでさえ、これから何が起きるのか理解していないことです。

 

すぐに、ロシア人は基本的な商品の不足に陥るでしょう。iPhoneやすでに輸入禁止になっているもののことではなく、食べ物、衣類、車、電気製品のことです。

 

ロシアは国際貿易にかなりがっちり組み込まれていますが、すでに大手の運送業者はロシアへのコンテナ輸送を拒否しています。奇跡が起きてコンテナを送ってくれる誰かが見つかっても、支払いはどうするんでしょう?また、ロシア製品を買い手は拒否するので輸出収入はだんだん減ります。

 

制裁を受けていない石油会社にさえ買い手はつきません。大手天然ガス輸出企業のガスプロムはすでに制裁下にあり、どうやって外貨収入を得るのかは分かりません。

 

ロシア中央銀行は6500億ドルという莫大な準備金を貯めていましたが、半分以上はすでに差し押さえられており、保有する金(Gold)もどうなるのか不透明です。どの国の銀行も、罰を恐れてロシアから買ってくれることはほぼないでしょう。

 

ロシアは、自動車、航空機、家電関係で、過去にたくさんの工場を建設してきたと思われていますが、これらはすべて輸入部品に頼っています。ということは、今後数か月は、産業全体が閉鎖されると考えられ、その結果品不足、失業、税収源となり、さらに公務員への給与支払いにも支障が出ます。

 

飛行機は国内線でさえももうすぐ運航停止になるでしょう。航空機はすべて輸入で、西側は部品の供給を禁止していますので、大規模な運航停止につながります。

 

インターネットも閉鎖されるでしょう。ニュースサイトの多くはすでにブロックされていますし、ウィキペディアも時期に閉鎖です。ツイッターFacebookYouTubeもです。

 

農業も影響を受けます。ロシアでは作物の種(タネ)の40%は輸入です。ジャガイモの種の90%は輸入されています。農業に力を入れることにはなるでしょうが、少なくとも短期的には基本的な農産物の不足は避けられず、価格は急上昇します。

 

さらに、ロシアから逃げ出せる人は脱出し始めるでしょう。すでに始まっていますが政府はこれを理解しているので、IT関連の人材を維持するため多くの対策を出してきました。それでも流出は止まらないので、もうすぐ一部で出国ビザ制度が導入される、または国自体を閉じてしまうことがありそうです。

 

唯一の希望の光は、ソ連時代に郷愁を持つ人々が、その魅力を存分に感じられるようになるということでしょうか。そしてそれは、比較的草食系のフルシチョフ-ブレジネフーゴルバチョフ型のソ連ではなく、狂った独裁者に率いられたソ連なのです。

 

この教授がツイートした後、様々な予測が現実になっています。露航空会社のアエロフロートとオーロラ航空が国際線を停止しました。外国企業からリースしている機体差し押さえを懸念しているからですね。子分のベラルーシだけには飛んでます。

 

メディアも一斉に萎縮させられています。この戦争でロシアに都合の悪い内容を書くと禁錮最大15年という法律が出たおかげで、自由主義メディアはすでに脱出し始め、残ったリベラルメディアも過去記事の削除を行って自衛しています。ソーシャルメディアTwitterFacebookはブロック対象となりました。

 

教授の追伸ツイートには、ロシア最大の自動車メーカー、アフトヴァースがすでに4日間操業停止したとあります。電子部品不足で自動車の組み立てを中断したとのことです。

 

制裁の影響はもちろん我々のほうにも出ますが、ロシア国民への影響はかなりのものとなりそうです。ものすごいプロパガンダを国民に流し続けているロシアなので、苦しみはすべて西側のせいということになりそうでそれも怖いですね。ロシアが勝っても負けても、国際社会の信頼は取り戻せないところまで来ており、行くも地獄戻るも地獄という状況、プーチンはどう見てるんでしょう。怖いです。

 

中国政府は容認?北京五輪中国代表アイリーン・グーに二重国籍疑惑

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北京の冬季五輪ももうすぐ終わりますね。

個人的には平野歩夢選手の金メダルが最高だったかな。

2回目のパフォーマンスで2位にされて、うそでしょっと思ったんですが、3回目お見事でした。あれが金じゃなかったら何が?って感じでしたね。

 

さて、最近フィギュア、スノーボードなんかを見ていても、アメリカでは冬季スポーツはアジア系の活躍が目立つんですが、そのなかでも女子フリースタイルスキーのアイリーン・グーが金2つ、銀1つのメダル大量生産で強さを見せました。彼女、実は北京五輪ではアメリカ代表ではなく中国代表です。

 

関連記事はこちら。

www.economist.com

www.theguardian.com

私、あんまり知らなかったんですが、モデルもやっているかなり有名な選手みたいです。綺麗ですもんね。18歳で米サンフランシスコ出身。中国人の母親とアメリカ人の父親の間に生まれ、餃子大好き中国語ペラペラとのこと。なんで餃子?餃子って西洋では中国人の典型的好物と認識されてるのかな(笑)。

 

2019年に中国籍を取得して中国代表として五輪に出ていますが、彼女がアメリカ国籍を捨てたかは分からないそうです。アメリカは二重国籍を認めていますが、中国は認めていませんので、ルールに則れば、彼女は米国籍から離脱しているはずです。

 

彼女のようなケースは中国でも結構問題になっているそう。過去に何百万人もの中国人が海外に渡る、または投資をして外国の国籍を得ています。法律では、その結果自動的に中国の市民権ははく奪されるはずです。ところが多くの人が外国籍を得たことを秘密にしており、中国籍を失うことを避けています。中国国民のみに交付される身分証明書をもっていれば、中国に住んで働くのがかなり容易になるとエコノミスト誌は説明しています。

 

かつては中国は海外に住む華僑を自国民とみなしていました。しかし、彼らの忠誠心が疑われるようになり、1950年代に政策変更。1980年には二重国籍禁止となりました。中国国内でも二重国籍禁止は人材の流出を促しているという批判が出て、外国籍=非愛国者というのはいかがなものかという意見があったそうです。これは日本でも言えますね。外国籍の日本人研究者のノーベル賞受賞の時いつも話題になります。

 

一方で、2009年には愛国映画に出演してた俳優の数人が、外国籍をもっていたことがわかり、怒りの声が上がるという事件もありました。ポップスターなども同様に厳しく糾弾されており、多くの国民は現行法を支持しているそうです。二重国籍が認められれば国内で不正に金を稼いで海外に逃げることが容易になるという主張もあるそうです。うは、いまや中国の方がどこよりも稼げるということでしょうか。

 

中国は2017年に外国パスポート保持者入国の際、指紋採取を開始しました。指紋は中国の身分証明書との照合ができるため、取り締まりが容易になるということで、二重国籍者は震えあがったらしいです。エコノミスト誌は、「五輪で金メダルが狙える人には柔軟に適用できるようです」と皮肉っぽく書いています。

 

グー選手は、自分の国籍の話では常にお茶を濁しています。まだアメリカ国籍なんでしょうかという質問に、「私はアメリカにいるときはアメリカ人、中国にいるときは中国人(エコノミスト誌)」と回答。まあ、子供のころから毎年中国に滞在しているということなので、その気持ちは分かりますが、答えになってないですね(汗)。

 

ガーディアン紙から、国籍のことで批判が出てますけど、という質問をされたときも「私は18歳で最高の人生を生きている」「私はいい人で、自分が下す決断の理由も分かっている。より多くの人々の利益になると思うからそうしている」と答えています。また、「無学で感謝や愛の経験のない人をなだめるために、時間を浪費する必要はない」「私を信じない、私が嫌いというのは損失だ。そう思う人が五輪で勝つことは絶対ないから」とかなり強気です。

 

ウイグル族の問題など、様々な人権侵害を行っている中国を代表するのは不謹慎という意見がアメリカではたくさん出ているそうです。以下は保守系メディアの意見。

www.nationalreview.com

グー選手は、フリースキーで好きなところは、どの国のために滑っているかではなく、仲間と共有する情熱であり、人々を団結させるこのスポーツの力だとしています。競技は国籍の問題ではなく、人と人をつなぐ、文化を共有する、互いに学び友情を育むと発言しています。

 

グー選手の国籍は関係ないという主張にニッキー・ヘイリー前国連大使は、「人権侵害」に加担していると批判。「市民権」という点ではどちらかを選ばなければならないと断言し、アメリカと中国は2つの全く異なる国だと述べました。「すべてのアスリートは国旗を背負うとき、自由を支持するのか、人権侵害を支持するのかを知っておかねばならない。その中間はない」としています。まあ、アメリカ人なら気持ちのよいお話ではないでしょうね。

 

私はグー選手がモデルという点も注目してしまいます。実は、彼女、五輪前から多文化アイデンティティを売りにモデルとして大成功しています。

www.lifestyleasia.com

 

この記事によれば、彼女は中国で人気急上昇。微博アカウントには約500万人のフォロワーがおり、中国の若者にとっては強力なインスピレーションになっているそう。アメリカと中国という2つのルーツを持つ彼女は、世界最大の2つの市場において、ブランドを代表するにはパーフェクトということです。

 

2021年にはグー選手は16のブランドとスポンサー契約を締結。今年は米中合わせて7つのブランドを追加。エスティ―ローダー、ルイ・ヴィトン、ヴィクトリアズ・シークレット、ティファニーなど有名ブランドのモデルとして活躍中です。中国ではチャイナモバイル、スポーツメーカーのANTA、中国銀行、JD.comなど主要企業の顔となっています。

 

市場調査会社の調べでは2021年に推定3140万ドル(約36億円)を稼いでいますが、なぜかフォーブスの番付対象には入ってなかったそう。もし入っていれば、大坂なおみセリーナ・ウィリアムズに続く3位だったということです。

 

二重国籍疑惑はぬぐえませんが、中国代表で五輪に出たことでさらに中国の仕事は増えるでしょう。もしかしてここが狙いだったのかも。西洋と東洋の魅力を兼ね備えるアジア系アメリカ人(今はアメリカ系アジア人か?)ということで、欧米でもアジアでも注目度は上がると思います。五輪はまさにプロモーションにとっては格好の場だったことは確かですね。プレゼン力高し。お見事です。

 

必要なのは信頼と連帯。デンマークがコロナ規制解除

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今日はデンマークです。

昨日この記事を書きました。通信社の報道をメインにまとめております。

newsphere.jp

デンマークはオミクロン株、しかもBA.2という亜種の感染が拡大中なんですが、コロナ規制を撤廃すると発表し、2月1日からほぼ全面解除になっているようです。この記事のなかで専門家のツイートをご紹介したんですが、字数の関係でちょこっとしか書けませんでしたのでここで詳しく見ていきたいと思います。

 

書いた方はデンマークオーフス大学政治学者、ミカエル・バング・ピーターセン氏です。パンデミック下の行動に関する政府のプロジェクト@HopeProject_dkのリーダーで、政府のアドバイザーでもあるとご本人が書かれてます。

 

ピーターセン氏によれば、デンマークではICU入院は減っていますが、感染者数は非常に多く入院も死者も緩やかに増えています。にもかかわらず、国民の60%以上が規制解除を望んでおり、懸念しているの28%を大きく上回っています。また、コロナが社会的脅威だという気持ちも低下しているそうです。

 

パンデミックを通してデータが示すのは、デンマーク人の主要な心配は自分の健康ではなく医療への負荷の高まりだということ。さらに、1月後半には健康よりロックダウンのほうが心配だという意見が勝っていたそうです。

 

こんな意見に影響しているのは、ワクチン接種率の高さです。国民のワクチンへの信頼は高く、全人口の81%が接種済み、また61%がブースターも接種済みです(接種は5歳以上から)。さらに、デンマークの感染はほぼオミクロン株によるもので、ブースター済みなら感染しても重症化の心配は低いとされています。実際に感染者は多くても医療体制への負荷は前の感染の波より低くなっています。

 

明らかな例はICU使用率の低下で、これはデルタからオミクロンにシフトしたことによります。現在の超過死亡はデルタによるものということ。

 

オミクロン感染がピークを迎えていないことを懸念する声もありますが、感染モデルからはもうじきピークを超える(もしかしたらもう超えているかも)ということです。

 

コロナによる後遺症も懸念されていますが、ワクチン接種は後遺症も防ぎ、デンマークでは子供の後遺症もまれで短いことが分かっているそうです。

 

状況が落ち着くまで規制解除を待つべきではという意見もあります。そうかもしれないが、待つことはタダではないというのがピーターセン氏の意見です。経済、心の健康、そして民主的権利におけるコストがかかるのです。これらのバランスを取るのがデンマークの戦略だとしています。

 

ピーターセン氏らの調査では、これらのコストはコロナ疲れを引き起こし、不信を煽ることが分かっています。デンマーク人の幸福感が比較的高いのは、これまで規制がいくらか穏やかで、可能であれば緩和するという方針が取られてきたためです。

 

パンデミックを管理するには妥協が伴い、「これだ」という戦略はありません。一連の理にかなった戦略の中で、民主的合意は妥協の中身より大事だとピーターセン氏は言います。

 

デンマークでは、高齢者の大多数さえ規制解除は大丈夫だと考えており、隔離で感染を避けられると感じているそうです。個人的に感染の脅威を感じているのは実は高齢者よりも中年で増えているそう。

 

規制解除は誰かに負担を課すことになりますが、それでも国民が受け入れるのはなぜなのか。ピーターセン氏は、若者は非常によく規制に従ってきたとし、政府への信頼と社会の連帯がデンマークでは非常に高いからではないかと説明しています。

 

さらにデンマーク人は危機にさらされている人を助けるという意識が高く、高齢者や弱者に対するソーシャルディスタンシングがよく守られ、注意を緩めず今後も対策を続けて行くものと思われるとしています。

 

それでは別の国でも責任を個人に向けるという方法を取るべきでしょうか?ピーターセン氏は、感染状況と市民がそれを選ぶかどうかによって決まるとしています。社会がコストを受け入れ、合意して行動するには信頼と連帯が必要だとしており、それは規制をするときも解除する時も同じだとしています。

 

ツイッターなんかでも今回のデンマークの決定はちょっと危ないんじゃないかと指摘される専門家もいましたが、国民もリスクを理解したうえでの政府の決断と言えそうですね。ちょっと前の言い方だと、民度の高さというんでしょうか。同じことができない国も確かにありますね。アメリカなどは、連帯の意識が低いのかワクチン接種にしても規制にしても社会としてコロナに対応していくという感じには見えないです。

 

日本はどうかというと、個人的には国民のレベルはデンマーク並みかそれ以上だと思います。ロックダウンを一度もしていないのに感染も死者もずっと低く抑えてきました。実は一時デルタ感染が広がったときには、もうロックダウンのほうが早い!と思った私ですが、やはり緩い規制だったことで、追い詰められた感が抑えられてよかったんだなとピーターセン氏の説明を読んで感じました。

 

マスク着用をはじめ集団としての感染対策もよくできていた(今もできてます)と思いますし、三密回避などにしても、早くから専門家の指導にしたがって生活してきました。お休みになっても心配だから実家の老いた両親のところに帰らないという配慮なんかも多くありましたよね。前政権の時には、猛スピードでワクチン接種も進め、他国の接種率にあっという間に追いつきましたし、国民としては世界トップレベルかもと思います(自画自賛かも)。

 

問題はデンマークと違って政府が信頼されていないことだと思います。まあ、菅さんのときもダメという批判はすごくて、もともと政府に注文が多い国民性かもしれませんね(笑)。ワクチン接種が成功してやめてから評価が高まった部分はありましたが…。

 

それにしても現政権のメッセージってずれてる気がします。すでに家庭や学校が感染の大きな経路になっているのに、飲食店対策、入国者の水際対策だけというのは謎。また、毎回医療崩壊寸前になってきたのに今回も同じ流れです。オミクロンは重症化しにくいという情報だけが先走りですが、感染者が増えれば医療体制は圧迫されると専門家の指摘があり他国でもそうなっていたのに、特に備えがなかったような…。

 

もっともがっかりなのは、ワクチン接種が遅れたことですね。11月に入ってオミクロンが登場。急速に広がっていくことが予測されたのに、ワクチン接種が進まずです。子供たちの接種もこれからあるのにこのスピードでは不安です。日本は国民の連帯はあるんで、あとは政府のリード次第なんですが、総じて自信のなさそうな後手後手対応なので国民の信頼というのが形成されないんだと思います。

 

実際のところ慎重な日本人が「規制全面解除!」の方向にいきなり動くとは思えませんが、感染対策に関してはいい意味で受け身が得意なので「こういう風にやります!ついてきてください」といえば前回ワクチンの時みたいにできる国民だと思うんですけどね。ということで、やっぱり信頼と連帯が揃わなければ、感染症対策ってうまくいかないんだなと思った次第です。

 

戻りますが、ピーターセン氏のツイートのなかで印象的だったのは、パンデミックではなくエンデミックという言葉を使っていたことです。季節的地域的流行という意味になりますが、すでにデンマークではコロナがそういった状況に移行していると考えており、今後またどっと感染の波が来ては去っていくインフルエンザのような状態になりつつあると考えているようです。これまでの感染症では歴史的にほぼその流れなので、そう信じたいところですね。デンマーク規制解除の成功を、祈りたいと思います。