伊藤詩織さんが、同じジャーナリストである山口敬之さんから性的暴行を受けたと訴えた民事裁判で勝訴しましたね。山口氏に330万円の賠償が命じられ、メディアにも大きく取り上げられました。
私は2年前に刑事裁判で山口氏が不起訴になった後、伊藤さんの事件を海外メディアが取り上げたときに、その内容について記事を書いていました。
実はこのころは日本のメディアは結構沈黙でした。詩織さんより、むしろ山口氏を擁護するようなメディアやソーシャルメディアの書き込みも多かったと記憶しています。毎日新聞の記者さんなどは今では詩織さんの件をしっかり報道していますなどとおっしゃっていますが、最初のころは一部週刊誌ぐらいしかまともな話は書いていなかったはずです。詩織さんがニューヨークのピアノバーという、知り合った客と夜を過ごすようなところで働いていたとか、ハニートラップに決まってるみたいなひどいものが目に付きました。
なので私は海外記事を読んで本当にその差に驚きました。特に「ポリティコ」という政治誌に載った詩織さん自身が書いた記事は、とてもしっかりした内容でポイントを押さえ説得力がありました。また、性暴力の被害者が表に出てくることがないのは、日本社会がその声を聞き入れないからだという海外メディアの指摘にも、日本人として、女性として非常に考えさせられました。慰安婦問題で日本人慰安婦が表に出てこなかった理由はここですよね。こういった事情も含め、詩織さんには民事訴訟ではぜひ勝ってもらいたい、そう願わずにはいられなかったです。
そして今回の勝訴。330万円が妥当とは思いませんが、まずはホッとしました。以前と比べ、詩織さんを応援する声も大きくなったと思います。詩織さんは、事件を公表したことでいろいろな嫌がらせを受けたため、日本を離れイギリスで仕事をしているようですが、ジャーナリストとして素晴らしい作品を作っています。
非常に興味深いテーマを扱った作品の数々が、彼女のサイトで紹介されています。国際的なコンクールでも数度賞を受けていますし、もともと才能があった方だと思います。きっとアメリカで活動したいという気持ちから、ビザが取れるTBSで働くことを望み、山口氏に頼んだんだと思います。実は英米は意外にもコネ社会で、大学のネットワークや親のコネなどを使って就職活動しないとなかなか仕事に恵まれないところです。事情を知らない人はハニートラップと中傷しますが、山口氏のコネに期待したのは、全く当然だと思います。
山口氏は控訴すると言ってますので、この後どうなるかはわかりませんが、それにも増して詩織さんに関しては一つ心配していることがあります。それは彼女が日本のMeTooムーブメントの旗手と海外で捉えられていることです。例えば最近出た海外記事の見出しの詩織さんの呼び方は、
Japanese #MeToo simbol
日本の #MeTooシンボル(CNN)
Japanese 'MeToo' icon
日本のMeTooアイコン(豪ABC)
public face of the country's #MeToo movement
日本の #MeToo ムーヴメントの公の顔(米公共ラジオ網NPR)
となっており、なんだか性暴力の問題における象徴のレッテルががっちり貼られています。詩織さんが海外で取り上げられるのは英語ができるためという意見もありますが、上手に考えを伝えられたことがもとで彼女のイメージがここで固定されてよいのかなと。国内外で一生彼女にはこの#MeTooシンボルという言葉が付いて回るのでしょうか?
とても才能ある方だけに、そこがとても引っかかるんです。伊藤詩織という一人の女性に、こんな重い役割を死ぬまで背負わせてしまうのであれば、山口氏は、別の意味でも取り返しのないことをしてくれたんではないかと、思ってしまうのでした。