UK9報道部

良質な「コタツ記事」を目指します。海外ニュースがメイン。

格差是正は教育から。もう一つの「ヒルビリー・エレジー」

f:id:UK9:20210102134221j:plain

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

明けましておめでとうございます!

今年のお正月はのんびりするしかないので、なーんにもしないで家でゴロゴロ。自動で感染抑制につながってしまうので、寝正月は世界を救う(笑)。

 

横になってツイッターをしていたら、ネットフリックスで「ヒルビリー・エレジー」見ましたっていうツイートがありました。これです。

www.youtube.com


実はこの原作、結構数年前に話題になりまして、私も読みました。舞台はアメリカのラストベルトと呼ばれる、昔栄えた産業が衰退して取り残された人々が住む地域。ここで育った主人公が、勉強してハーバード大学に行って出世するという話でした。アメリカンドリームのお話と捉えることもできるんですが、いかにして貧乏や格差を克服するかというお話でもありました。映画では、そっちのほうより、主人公の家族との関係にフォーカスされてる感じかもですね。まだ見てないですが。

 

この本を読んだとき、ある人を思い出しました。私はアメリカの大学院に大昔行っていたんですが、そのときのクラスメート、ダナ・ビーグルという女性です。

 

私はオレゴン州ポートランド大学から入学許可をもらいまして、そこの教授から、親切にもお手紙をもらっていました。「空港についたら、うちの学生が迎えにいくように手配してある」と書いてあったのです。それが彼女でした。到着後いろいろ行き違いはあったのですが、何とか巡り合えて車で学校の寮まで連れて行ってもらいました。彼女は30代後半ぐらいだったと思います。白人できびきびとしゃべる感じのいい人でした。

 

あんまり昔のことであまり覚えていないのですが、たしか私は夏休みのコースを取った気がします。それで、そのなかの一つのクラスにダナがいました。細かい授業内容はもう忘れてしまったのですが、格差を扱ったクラスだったと思います。そのなかで、彼女の人生が例として紹介され、それは次のようなものでした。

 

ダナの両親は早くから離婚しており、母親とその姉妹とその子供たちという大家族で暮らしていたそうです。なんでそうなったかというと、母親もその姉妹も、みなシングルマザー。できちゃっただけなのか、離婚なのかはわかりませんが、みな子供たちの父親と別れており、生活保護を受けていました。それぞれ高校生で妊娠して母親になってしまったため、まともに勉強もしてなかったそうです。そして、ダナを含めその子供たちも、同じような運命を辿りました。女子供ばかりの世帯には、常に男が出入りしては消えていき、それに合わせて女たちも子供たちも出ては戻ってくるという回転ドアみたいな生活だったらしいです。

 

ダナも10代で母親になり、高校を中退。まともな仕事もなく、働いても生活できるだけの稼ぎもなく、結局親の家に戻ってきて、自立できない世帯丸ごと生活保護頼みで暮らしていたそうです。

 

転機は、自治体の自立支援を助ける団体の人に知り合ったことで訪れます。貧乏を訴えるダナに対し、その人は学校に戻ることを勧めたそうです。彼女にとっては「目からうろこ」だったとのこと。なぜなら家族にまともに働いている人はおらず、教育が大切だと言う人はいなかったからです。ひとり親になり生活保護で子育てをし、その子供がまた若くして親になり生活保護を受けるという自分たちの生活が、負の連鎖になっていること、そしてそれを断ち切ろうと誰もしてこなかったことに初めて気が付いたということでした。

 

良い生活を手に入れるには、無知ではダメだ、学ぶことだと気が付いたダナは、学校に戻り、コミュニティ・カレッジに入り、奨学金を得てポートランド州立大学に入りました。大学に行くのは身内で初めてという快挙だったそうです。とても成績が良かったので、ポートランド大学の修士課程も奨学金で通っていました。その後は、これまた奨学金オレゴン州立大学に進むということになっていました(後日、博士号を取ったということは聞いています)。

 

正直アメリカってえっらいところだなあ、とその時はびっくりしたのですが、多分ダナみたいな人は今でもアメリカにたくさんいるんだろうと思います。子は親を見て育つといいますが、まさに無職の親やおばさんや、高校中退の親せきや、お腹の大きい姉妹に囲まれていたら、それが当然と思うのは理解できます。他のロールモデルがありませんから。

 

黒人社会では母子家庭が多いから、マイケル・ジョーダンみたいなたとえテレビの中のヒーローでも、必要なんだという話も当時よくありましたが、実は白人社会も全く同じです。目指すべき目標になる人がいないと、現状維持になってしまうんですね。貧困は、実は人種問題ではなく、階級問題だと、私の教授は言っていました。人種に関係なく、下層にある人々は同じ問題を持っていると。

 

ヒルビリー・エレジー」でも、工場に勤めるのが当たり前の町が衰退しても、だれも別の生き方に目を向けていませんでした。主人公はこれではいけないと気づいて、がんばったわけで、私は本を読みながら、やっぱりダナみたいな人は別の地域でもいたんだなと思いました。

 

ダナの家庭ほどではないですが、実は日本でも格差と進学についての話は最近よく目にします。例えば最近このニュースがよく取り上げられていました。

newswitch.jp

日本の場合は、明らかに階級問題になっていると思いますね。お金のない家庭の子供が大学にいかなければ、ますます階級は固定されると思います。格差を正すには、階級のシャッフルが必要ですが、それを起こす可能性が一番高いのが教育だと思います。国としても子供たちがお金の心配をせず学べる制度を、充実させる必要があります。一億総中流の時代はとっくに終わってます。お金のある家庭は勝手に手当てしますので、今後は意欲ある子が目標を断念しなくてよいシステムを考えていくべきと思います。