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「クソどうでもいい仕事」は実は少なかった…。「ブルシット・ジョブ仮説」否定される

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EnhialusによるPixabayからの画像

本日はお仕事に関する興味深いお話です。アメリカの人類学者、デビッド・グレーバーが『Bullshit Jobs』という本を2018年に出しておりまして、日本では「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事」と題されています(タイトルの翻訳はまり過ぎ~)。同氏は、多くの労働者が無用で社会的価値がないと自ら認識している仕事=「ブルシット・ジョブ」に就いていると主張し、その社会的な害を分析しました。

 

ところが、ケンブリッジ大学バーミンガム大学の研究者が、同氏の理論にはいくつかの大きな欠陥があると指摘した論文を発表したとのこと。

www.cam.ac.uk

 

グレーバー氏が「ブルシット(BS)・ジョブ」と認定したものは、ドアマン、受付嬢、ロビイスト、広報担当者、さらに企業弁護士や法律コンサルタントなどの法律専門家など、多岐に渡っています。うわ~、確かにいらんかな、というもの入ってますね。最近機械がやってくれるものも多いし、コロナで不要になりつつあるものもありますので。

 

論文の著者の一人、マグダレーナ・ソフィア博士は、BS理論には訴えかけるものが確かにあると述べ、多くの人が一度はそのような仕事に就いたことがあるという事実が、グレーバー氏の研究への共感を呼んだのではと見ています。しかし、彼の理論は、いくつかの命題を提示してはいるものの、信頼できるデータには基づいていないと同博士は主張しています。

 

グレーバー氏の命題を検証するため、研究者たちは欧州労働状況調査(EWCS)という調査を用いて、「有用な仕事をしているという実感がある」に対し、「ほとんどない」、「まったくない」と回答者が答えた理由を調べました。

 

グレーバー氏は、労働者の20~50%、もしかして60%がBSな仕事についているとしていたんですが、EWCSの調査では、自分が役立つ仕事をしていない気がすると答えたのは、EU労働者のわずか4.8%しかいなかったそうです。

 

さらにグレーバー氏は、実証的な証拠を提示していないのにBSな仕事の数が近年急速に増加していると主張していましたが、実際にはBSな仕事をしている人の割合は2005年の7.8%から2015年には4.8%まで減少しており、逆の結果となっています。

 

グレーバー氏の次の仮説は、BSな仕事は金融、法律、行政、マーケティングなどの特定の職業に集中しており、ほとんど公共サービスや肉体労働に関連した職には存在しないというものでした。「多くのサービス労働者(最近でいうエッセンシャルワーカーみたいなものだと思います)は自分の仕事を嫌っているが、そういった人でさえ、自分の仕事がいくらかでも意味ある違いを世界にもたらしていると認識している。一方、BSな仕事をしていそうなオフィスワーカーは、実際そう思っているとしか思えない」と同氏は述べています。厳しいお言葉ですが、わかる気はする…。

 

しかし研究者たちが、自分の仕事がほとんど、あるいはまったく役に立たないと評価した人の割合で職業をランク付けしたところ、自分の仕事は役立たないと大体数の労働者が感じる職業が存在するという証拠は得られなかったということです。

 

教師、看護婦などの一部の労働者は自分の仕事が役に立っていると評価していることが多く、逆に営業職の従事者は役立っていないという評価が平均(7.7%)以上だったということ。とは言え法律家や管理職はこのランキングでは下のほうに位置し、ごみ収集者(9.7%)、清掃人、ヘルパー(8.1%)などはランキングの上のほうで、グレーバー氏の主張とは矛盾しているということです。

 

結局、同氏の理論の主要命題のうち、裏付けのあるものはほとんどないということが明らかになったとバーミンガム大学のアレックス・ウッド博士は述べています。

 

しかし絶対数で考えると自分の仕事が役に立たないと考えている人自体はかなりいるわけで、その原因を研究者たちは調べたそうです。その結果、マネージメント側から尊敬され、励まされていると感じる人は、自分の仕事が役に立たないとする可能性は低いことが分かりました。逆に雇用者や上司が失礼、非効率的、フィードバックが少ない場合は、自分の仕事が有益とは感じなくなるそうです。さらに、職場で自分のアイデアを活かせている、または仕事をするのに十分な時間があると考えている人ほど、自分の仕事が役立っていると感じているそうです。業種じゃないってことですね。

 

ということで、仕事が無駄だと感じる原因の一つは、自分の可能性や能力を発揮することに影響する仕事のペースということ。そして仕事にやりがいを感じる要因としては、上司や同僚からのサポート、重要な決定や組織の方向性に影響を与えることができることがあげられました。

 

ケンブリッジ大学のブレンダンバーチェル教授は、「データはグレーバー氏の主張を必ずしも支持するものではなかったが、彼の考察は無駄な仕事の弊害についての認識を高めるうえで重要な役割を果たした」と述べています。一般的にBSな仕事がどのようなものかに関しては的外れだったのかもしれませんが、人々の仕事に対する態度が心理的な幸福感につながるという点では彼の主張は正しく、それが雇用者や社会全体が真剣に受け止めるべきことだとしています。

 

ちなみにご自身は残念ながら昨年亡くなっています。ウィキペディアによればベーシックインカム推進派だったということで、なかなか面白そうな方だったようです。ご興味ある方は本のほうをどうぞ。