UK9報道部

良質な「コタツ記事」を目指します。海外ニュースがメイン。

フランスお怒りで外交問題に発展か?豪潜水艦プロジェクト騒動を解説

f:id:UK9:20210918121235j:plain

Kim HeimbuchによるPixabayからの画像

私オーストラリアって20年ぐらい前に行ってるんですが、結構のんびりしたステーキのおいしいところっていうイメージから止まっております(笑)。そもそもダウンアンダーという世界の中心から遠いところと長年見られていたわけですが、実は近年中国の台頭でインド太平洋地域の安全保障上の役割がマシマシの国になっているようです。

 

で、今回出たのが潜水艦問題。実はこたつライターの得意分野なのでありました(鼻息!)。なぜなら私は2015年ごろに豪潜水艦プロジェクトについての記事を発注されて以来、このネタで何度も書いてきたからです。軍事オタクとかでは全くなく、技術的な部分は今でも理解できないことが多いのですが、書いてるうちにプロジェクト自体の経緯&展開に詳しくなってしまいました。

 

そもそも豪潜水艦プロジェクトは、老朽化したコリンズ級という潜水艦から新しいのにしましょうというもので、2014年ぐらいから話題となり、当時の首相の安倍さんの大プッシュもあって、日本の潜水艦「そうりゅう」が受注確実とまで言われてたんですね。4兆円プロジェクトという大型案件で、日本でも期待が高まり盛り上がりました。ところがその後日仏独の受注合戦となり、なんとフランスが受注しちゃったわけです。しかし、このフランスとの合作がめちゃくちゃ問題化していたというのが現実でした。

 

以下当時書いた記事をいくつか。

newsphere.jp

2018年ごろから計画が遅れているというニュースが頻繁に出始めました。期待させられたのに受注を逃した日本の軍事ファンの間からは、「ほらね」的な感想が…。日本の買っておけばよかったという識者の意見にも「どうせ中国とオーストラリアは蜜月だから日本の潜水艦なんかやらんでもよろしい」などの冷たいコメントが出ていたのを覚えています(涙)。

newsphere.jp

で、今年になると、遅れに加えコスト増大&国内建造固執というハードルが問題になっていると報じられています。このころから契約キャンセルかといううわさも。

 

そして今週ついにフランスを切って英米協力で原子力潜水艦を建造する、という新たな計画が発表されました。

newsphere.jp

豪にとって今でも中国は輸出の面では大事なお客様なのですが、このところいろいろ対立があり、以前の蜜月はどこへやらという冷え込み方です。そこで中国の脅威を念頭に米英豪の3か国で新たな同盟を作り、英米で協力して豪に世界でも数少ない米の技術を使った原子力潜水艦を作ってあげよう!というお話に豪が飛びついたという感じになっています。フランスははしご外されて激おこ…。

 

この計画変更ですが、どういう経緯だったのかを政治誌ポリティコが説明してくれています。

www.politico.eu

どうもフランスとの契約をやめようというのは6月ぐらいから固まってきていたようです。4月にはプロジェクトの次の段階の契約締結を豪が拒否していたということ。上院委員会でも、フランスとの取引をやめた場合の選択肢を検討してきたと国防長官が述べていました。

 

オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー誌によると、7月のイギリスでのG7サミットで、バイデン、英ジョンソン、豪モリソンの三者会談が開かれていました。この時はバイデン氏がモリソン氏に一対一の対談の機会を与えず、冷遇したと解釈されていたそうです。しかし今思えば、この会談は潜水艦に関する大事なものだった可能性があるということでした。きっとそうでしょうね。

 

契約解除を望む理由としてあげられているのが、まずプロジェクトを受注した仏ナーバル・グループの前身DCNSが、ハッキングを受けて潜水艦に関する文書2万件以上が流出したという事件が露呈したことだそう。これにより、フランス企業とのプロジェクトの安全に懸念が示されました。特に野党がかみついたことが大きかったようです。

 

さらに、問題だったのはコスト増大です。豪はフランスのバラクーダ級の潜水艦なら、ディーゼルから原子力に変更ができる点で熱心だったとされていますが、費用はその後2倍に膨れ上がり、メンテナンスも入れれば予想以上の金額になることが改めて示されました。

 

また、最初の潜水艦が納入されるのは2035年以降、さらに建造自体は2050年まで続くということになり、2026年に退役が予定されていたコリンズ級に代わる潜水艦としては納期が遅すぎるという問題もありました。プロジェクト自体も遅延しており、コリンズ級を修理しながらでも、待ちきれないということだったようです。

 

ポリティコ誌は、最大の問題は、地元産業の関与をめぐる争いだったかもと述べています。そもそも、2016年の契約では、建造は国内で行われ、地元で90%製造、2800人の雇用を維持するというものでした。しかしフランス側はこの条件を改定したうえに、豪の産業自体が満足なレベルに達していないと反発していたということです。

 

豪は何年も前からプロジェクトの問題を認識していたのに、なぜ今になって契約を解除したのか?という疑問が残りますが、単に代替案を待っておりそれがやってきたからということのようです。豪にしてみれば、英米との新同盟で原潜が手に入り、しかも国内で建造できるという新たな道が開けたわけです。

 

これに対して、フランスは同盟国であるアメリカに怒り心頭。バイデン大統領のやり方は、前任のトランプ氏を彷彿させるとフランスの外相は発言しました。今日になってフランスが駐米、駐豪大使の召還を決定したというニュースも出ています。

 

フランス側は、豪の動きに対抗するとしており、すでに2019年に政府間協定に署名しているのに、どうやって契約を解除するのかと述べているそうです。2017年の豪とナーバル・グループとの契約では、豪政府と仏企業のどちらかが「当事者の契約実施能力が『例外的な出来事、状況、事柄により、根本的に影響を受ける』場合には、一方的に契約を解除できる」とされているとのこと。遅延やコスト超過、約束の不履行がこの条件に当てはまるかどうかは、裁判所の判断にゆだねられることになりそうだとポリティコ誌は述べています。

 

もし豪政府が撤退を決めた場合、契約書では「両者は継続のため共通の認識を得られるかどうか協議し、12か月以内に共通の認識が得られないなら、最初の契約終了通知の受領から24か月後に契約終了が有効になる」と規定されているとのこと。英米は18か月かけて新型原潜の技術をどのように提供するか検討するとしていますので、タイミング的にはばっちりではないかとポリティコ誌は述べています。

 

上院議員によれば、すでに20億豪ドル(1600億円)がプロジェクトに費やされたということですが、撤退費用を払っても、継続よりも撤退のほうがコストは大幅に少ないと地元メディアに述べたそうです。オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー誌は、フランスとの契約終了で納税者には4億豪ドル(320億円)の負担が発生しそうだとしています。

 

なんだかとってもお高いプロジェクトになってしまったようですが、新たな契約での原潜のほうはお値段どのぐらいになるんでしょうね。今度ばかりは、「やーめた」は国民から許されないと思います。個人的には、最初っから日本の潜水艦買ってくれてればよかったのにと思いますけどね(溜息…)。

 

訂正:G7会合は7月ではなく6月でした。ネタ元のオーストラリアン・フィナンシャル・レビューのは7月になっていましたが、そちらが間違いだったようです。