UK9報道部

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中国、そして台湾も加入申請。アメリカはどうする?TPPが面白くなって参りました!

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Michael GaidaによるPixabayからの画像

環太平洋連携協定(TPP)が大変なことになってきました。TPPは、そもそもニュージーランドシンガポールなどが大所帯の世界貿易機関WTO)で決められない貿易ルールを新たな枠組みで決めましょうと集まったのが始まり。そこに2008年から日本やアメリカなどが加わって、12か国でやろうということになりました。中国が台頭するなか、オバマ元大統領が中国のやり方に振り回されず、高度に自由化された貿易圏を作ろうということでアメリカが中心となって進んでいたわけです。経済だけでなく安全保障面にも影響するもので、メディアや識者からは対中包囲網と捉えられることも多かったと思います。

 

交渉を重ね、各国が譲歩し、2015年にまとまったのですが、雇用を奪うなどと国内から支持を得られず→米議会で批准されず→オバマ嫌いのトランプ大統領保護主義が盛り上がる中で脱退を2017年に表明。「アメリカ抜きじゃお流れ」的ムードとなりましたが、当時の安倍首相が崩壊を食い止め(ファインプレー!)、米抜きのTPP11で再出発。無事2018年に発効の運びとなりました。ただ、アメリカ抜きなので規模はぐっと小さくなっています。それでもNHKによりますと、2018年時点で世界のGDPの13%、貿易額の15%、人口5億人がカバーされているとのことです。

 

で、11か国以外に新たに飛び込んできたのがEUを抜けたイギリスです。加入申請をし交渉開始と報じられ、なんとなく日本のなかでも「環太平洋じゃないけどまあいっかな。新メンバ-増えるのよいことよね」っていう受け止めが多かったと思いますね。ここまでは平和だった、はい。

 

ところが、9月16日に中国が申請を正式に発表。対中カウンターバランスを目的に作られた関税同盟に、親分アメリカが離脱の後に中国が入るのかと、大きな驚きとして報じられました。そして続いて22日にはなんと台湾が加入申請すると表明。表向き一つの中国から二つの中国が手を挙げたわけで、なんとも困った感じになっているのが今です。

 

もともと両国ともTPP加入は検討していたんですが、気になるのが「なぜ今?」というそれぞれの意図です。中国の場合は豪潜水艦事件からの米英豪の新同盟の直後に加入申請を発表していることから、それに対する返答という見方もあるようです。台湾の場合は読売新聞によれば、中国の正式申請を受けて急いだということです。

 

中国のほうですが、面白いと思った識者の意見をご紹介します。

国際政策シンクタンクPerth USAsia Cetreのジェフリー・ウィルソンさんというリサーチディレクターの方です。いつものようにざっくり訳していきます。

 

かつてアメリカが米の地域的利益を促進するための「空母戦闘群」に当たるとまで言ったTPPに中国が参加しようとすることはどんな意味があるのだろう。

 

まず現実的に、中国の参加には国家資本主義モデルの構造改革が必要になり、これは政治体制的に絶対にできない。例えば加盟により中国の産業生態系の根本的な改革となる国有企業についてのコミットメントが必要になる。環境、労働、サービス、透明性といった必要条件は言う間でもなく、実現はしないだろう。

 

だから加入が目的でないのなら、2つの異なる動機が考えられる。一つは、台湾の加盟阻止だ。台湾より先に申請すれば、台湾の加入はほぼ不可能だ。既存のメンバーは二つの中国のどちらを選ぶか迫られる。日豪は勇気をもって対応するかもしれないが、他のメンバーは違う。

 

二つ目は、いつもながらの嫌がらせだ。中国は経済協力に熱心とアピールすることでアメリカに代わるパートナーとして外交的に売り込むことができる。また国内を分裂させるという側面もある。日豪などには対中政策の軟化を求めるグループがあり、彼らは加盟すれば中国も外国政策を弱めてくるなどのメリットがあると主張してくるだろう。

 

もちろん現メンバーが罠にかかる可能性はゼロとは言えないが、中国は豪と貿易戦争中、カナダには人質外交を展開(ちなみにこちらはファーウェイ副会長が司法取引で起訴猶予となり、その人質だったカナダ人2人が解放され今月25日に解決した模様です)、日本には尖閣問題があり、今のところ申請を容認することはないだろう。

 

中国との交渉開始には、メンバーのコンセンサスが必要なので、完全に拒否されるかもしれないが、まずはイギリスの申請からという言い訳で問題は先送りされるだろう。損失を被るのは加入申請間近だった台湾ではないか。

 

中国の今回の動きは、短期的には台湾加入を阻止し、反米メッセージを強化するという実質的にコストのかからないパワームーブ(他がやらないことをやって自分を優位な立場におくこと)に見える。いずれ周囲の批判や反対を受け入れないため真実が見えなくなった「裸の王様」であることが分かるので、長期的には中国のダメージになる可能性もあるだろう。

 

オーストラリアの方のようですので、かなり辛辣ですね。この時点では台湾がすぐ申請するとは思っていなかったようですが、その後のツイートでは、メンバー各国が一方に肩入れと取られては困ってしまうので、両方加入か両方却下の2択になるのではとしています。TPPメンバーシップが、インド太平洋地域を形成するより広範な戦略的競争の代理戦場になりそうだということです。

 

アメリカからの辛辣な意見も出ています。

www.nytimes.com

こちらはNYTのコラムニストでピュリッツァー賞複数回受賞の著名なジャーナリスト、トーマス・フリードマンのものです。とっても長いので短く訳します。

 

もともと中国にとってTPPはまさに脅威だった。中国の改革派にとっては中国を変えるかもと期待できるもので、強硬派にとってはアメリカのルールを飲まされるという潜水艦以上の恐怖だったわけだ。ところが、アメリカが抜けてしまった。その穴を中国が埋めますよ、と言って乗っ取れば、これは米英豪の潜水艦取引に対抗するのにはこの上ない一手だ。すぐに加盟はできなくても中国は一部の要求事項を満たしながらお茶を濁しつつ他の加盟国を誘惑して入り込めると見る専門家もいる。

 

TPPはアメリカではトランプだけでなく民主党の左派からも理解されず、推していたヒラリー・クリントンでさえもトランプとの選挙戦のため逃げ出してしまった。他のメンバー国は、TPPでこれまでになかった貿易上の譲歩をアメリカに与えたのに、アメリカが手を引いたことで今度は中国がアメリカの代わりとして収まろうとしている。今からでも遅くはないので、アメリカはTPPに戻るべきだ。例え中国が加盟したとしても中国だけを利することは阻止できる。何年もかけて潜水艦作りを手伝うより今TPPに入るほうがいい。なぜなら潜水艦ができたころには、CPTPPは、「Chinese People's Trans-Pacific Partnersship」に名前を変えているだろうから。

 

ただアメリカ国内は非常に保護主義に傾いていますので、事実上戻るのは難しいという意見もあります。一般のアメリカ人にはTPPの意義もわからないでしょう。著名な識者でも、TPPとRCEPを混同している人もいるぐらいです(この記事!読める方どうぞ)

 

こちらの香港紙の記事も面白いです。

www.scmp.com

政治リスクコンサルタント会社、ユーラシア・グループのアナリストによれば、中国は自国の裏庭で軍事的、外交的な対抗措置が強化されていくことを認識しており、それを相殺するのが経済パワーだと見ているそうです。アジア・太平洋地域における貿易戦略の欠如がおそらくアメリカの最大のアキレス腱だと見ており、それに対抗するのがTPPへの加盟だということです。

 

香港城市大学のジュリアン・チャイス氏も、オバマ政権でとん挫して以来、新たなアジア太平洋戦略をアメリカは打ち出していないと指摘。アイデアはいくつかあっても、安全保障、貿易、その他を含む統合的な戦略が明らかに不足しているとしています。すべてが解決するというものではありませんが、今TPPに戻るのが最善としており、このあたりはフリードマン氏と同意見のようです。

 

中国の申請が米英豪の新同盟への対抗策であり、TPP11の結束力を見ようとしているという意見もありますが、実は本気でTPPに入ろうとしているという見方も紹介されています。アジアの識者の中には、厳しいTPPのルールに合わせて国内を改革し、経済のさらなる合理化を目指しているという意見や、TPP参加で経済開放ペースが加速し中国にとってはプラスという意見もあるようです。もともと毛沢東時代から様々な領域で同時進行の発展を維持するという戦略が中国にはあり、地域、二国間、多国間のどの協定にも興味を示しているとのこと。よってTPPのような貿易協定は、中国の長年の国内目標に合致するものだということです。

 

ということで、中国の意図がホントに知りたいところですね。交渉にはかなりの時間がかかるということで、答え合わせはすぐにとはいかないようです。また今後のアメリカの出方も気になるところですね。