UK9報道部

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アメリカやっぱり自己中。脱中国AUKUS同盟でも豪に不安が残る訳

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OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像

涼しくなってきたと思いきや、今日はとっても暑い我が町です。エアコンまではいかないけど、そろそろしまおうと思った扇風機がフル稼働中です。

 

さて、ちょいと前にメディアを賑わせたオーストラリアの新アングロサクソン同盟(?)入りですが、秋とともに静かになってきました。仕事柄毎日グーグルニュースチェックをしていますが、最近は騒ぎも静まって、背景やこれからを深く分析した記事などが増えていると感じます。

 

面白かったものの一つですが、

www.politico.eu

 

タイトルは「どのようにして習近平はオーストラリアを失ったのか」です。

 

思えば豪はしばらく中国と蜜月時代がありました。そこから思いっきり方向転換したわけですが、そこまでに至る経緯を説明しています。

 

習近平主席が中国共産党のトップに立った2012年、豪は戦略地政学上の転換期の真っ最中だったということです。そもそも豪は植民地→英連邦にルーツを持ち、アジア太平洋地域のアメリカの番頭さん(笑)みたいな役割だったのですが、これからはアジアの時代ということで、独自にアジアにおける足場を築こうとしていました。その流れから地域の大国である中国に接近したわけです。

 

豪にしてみれば2国間の新時代が築かれるはずでしたが、そうはならなかった。中国もまた自分たちの軸足を固め、世界の経済や技術の力で超大国になろうと企てていたからです。表向きは誠実さと信頼を約束しつつ、西側同盟を切り崩すためまず豪を利用したということです。

 

その後は豪政府関連施設へのハッキング、豪中国語メディアへの攻撃、豪政治に対する中国ビジネスを通じての関与などを中国は次々と行いました。豪政府がコロナウイルスの起源の再調査を求めると、貿易規制を連発して反撃。また、南シナ海、香港、台湾といった豪の近隣地域で力による主張も高めていました。

 

こういった中国の戦狼外交が積もりに積もって、豪が逆噴射したというのが現在です。中国との貿易で距離を置こうとするなか、米英との軍事面での強化を豪は決断。さまざまないじめにあったことで、フランスとの潜水艦契約をぶっちぎってでも(これに関しては私の前の記事参照)、最悪の事態を想定して英米との協力に走ったとのことです。

 

豪戦略政策研究所(ASPI)のマイケル・シューブリッジ氏によれば、習近平氏は10年前には考えられなかった変化を起こしてしまったということです。まず2016年当時では原子力技術は無理としていた豪の政策を変えてしまったこと。そして互いの原子力技術の共有を認めていた英米が豪にもそれを共有することにシフトしたことだそうです。

 

潜水艦の件で欧州、とくにフランスはいい気持ちはしていませんが、豪貿易相ダン・テハン氏は、例え仲がこじれても「主権第一」という原則は曲げないとしています。シューブリッジ氏は、今は欧州は米豪に敵対的に感じるが、ほとぼりが冷めれば、アメリカのもとに帰ってくると見ています。対中感情は世界で悪化しており、豪に対するような中国のアクションは、西側の結束を結局強めるだろうとしています。

 

そういえば一帯一路の国々でも最近中国不人気ですし、欧州も中国警戒ムードが確かに広がってます。だからみんなで前みたいにアメリカのもとで団結して、中国に立ち向かうぞ!てな話になるかというと、実はそんな簡単なことではないようです。

 

theconversation.com

 

こちらはシドニー工科大学の教授ジェームス・ローレンスソン氏の寄稿です。中国に対抗するためにアメリカに経済的同盟を求めるのは間違いだという記事です。

 

中国による貿易攻撃に直面している豪は米に実質的な支援を求めていると同氏は言いますが、どうも米の支援は口先だけではないかということです。それどころか、米は豪の被害になるような選択に固執しているとのこと。

 

例えば、オバマ時代から米はWTO世界貿易機関)の審判機関に新たな裁判官を任命することを阻止しています。米中のような力を持たない豪にしてみればWTOのルールを各国が遵守することで自国の利益を守ることが必要ですが、その機会をアメリカの行動によって奪われています。

 

さらに、2020年に米が中国に圧力をかけて署名させた二国間貿易協定の実現をアメリカが主張しています。この協定により、米の生産者は中国市場へのアクセスが豪よりも有利になってしまう上に、大国が力で他国を強制することができることを、中国に示すことにもなってしまいます。

 

それでもモリソン豪首相は、「二国間の戦略的協力は経済問題にまで拡大されなければならない」としており、中国からの経済への攻撃に同盟で対応することを強く望んでいます。モリソン首相は米豪の定期的な経済対話を提案したといいますが、アメリカの反応は薄かったようです(涙)。

 

ローレンスソン氏は、経済同盟を懸念しています。その理由は、まず中国が豪に与えた痛手が限定的であることです。実は中国に圧力をかけられた輸出品において豪の輸出業者が負担したコストは輸出総額の10%未満だったとのこと。また、2021年上半期の豪の対中商品輸出は、2019年に作られた最高記録を37%上回っていました。これが意味するのは、中国の圧力の効き目はなく、豪経済は米の支援なしでも嵐を乗り切ることができるということです。

 

さらに、豪が希望するのは、中国がグローバルな貿易ルールに従うことですが、米との安全保障条約では国際貿易のルールを作ることはできません。そのうえ米は中国を戦略的ライバルに位置付けているため、豪が米との経済同盟を結ぶという考えが受け入れられるほど、豪が米とともに中国との「永遠の戦争」に巻き込まれる危険性が高まり、経済的利益がお流れになってしまう可能性もあります。

 

今後アメリカは豪を横目に中国との二国間協定を可能性さえあり、豪は経済面ではアメリカと結ばれないほうがよいという意見です。

 

結局アメリカが同盟国との多国間貿易協定に入らず、経済では独自に動くということであれば、豪のみでなく他国もやはり考えてしまいますよね。どの国も中国との貿易は大切ですから、少なくとも経済で脱中国を唱える国は出そうにない。むしろTPPのようなグループに入れて、少しずつでもルールのなかに組み入れようという考え方のほうが支持される可能性もありますね。