あっという間に年末。私は28日に仕事納めをしまして、3日までお休みです。いろいろあった1年でした、と言いたいところですが、何があったのか悩むぐらい単調な1年であった気がします。子供たちが家を出たことと、コロナ禍であまりイベントがなかったことが大きく影響したかなと。
とは言え、楽しいこともしたいので、今年は映画館にできるだけ足を運ぶようにしました。大作はオンラインで見れることが多いので、ちょっと地味な映画を中心に結構見ましたね。クルド人の難民申請者の子供たちを描いた「東京クルド」、アフガニスタンから欧州に渡る難民一家が携帯で撮った作品「ミッドナイト・トラベラー」、自由だったころの香港が美しかった「ホアジャオの味」なんかよかったですね。
村上春樹の作品をもとにした、「ドライブ・マイ・カー」も見ましたが、正直演劇のシーンが長すぎて辛かったです。映画は原作からイメージして作られていたということで、そのあと原作を読むことになりました。実は私村上氏の初期の作品が大好きでした。いまでも「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」はなんども読み返すぐらい好きです。
若いころはよかったんですが、おじ(い)さんの年になった村上氏のしつこいオナニーやセックスの描写に辟易して、しばらく村上作品から離れていたのです。村上氏ってハンサム系ではなく、どっちかというとバカボン系の顔(すみません…)で初老を過ぎて性的なものをおしゃれっぽく書かれるギャップに読者として適応できず。でも「騎士団長殺し」ぐらいからやや薄まった感があり(笑)、読んでもいいかなと思えていたんです。今回も映画の原作の収められた「女のいない男たち」も相変わらずセックスが多いんですが、以前の違和感がそんなになく読めました。文章は素晴らしいですよね。
あれ、本の話になっちゃったので戻ります。
さて、映画つながりで面白い記事を見つけました。これ。
知らなかったんですが、サウジアラビアって2018年まで約35年間映画館が閉鎖されていたらしいです。70年代まではやっていたらしいんですが、「アラブ世界におけるイスラム教の影響力拡大に伴い強い権力を持つ聖職者らが映画館を閉鎖した」と、2018年のロイターの記事に説明されていました。2017年に皇太子が経済改革・社会改革の一環として解禁に踏み切ったとのことです。
今回のネタ元、エコノミスト誌の記事によれば、サウジは「砂漠のハリウッド」となるべく、外国映画の撮影誘致や、映画祭開催など意外な取り組みを始めているそうです。映画館も、すでに500以上のスクリーンが国内にできているとのこと。
映画産業への回帰は、3つの理由からきているとか。1つ目は石油に頼らない産業が必要だから。2つ目は、政治的抑圧に直面する若者を満足させたいから。3つ目は国際的にひどい自国の評判を高めるため、ということです。分かる気がする。
まずは映画産業は国内の観客を増やすことが第一の課題ということで、アラブ首長国連邦などからの投資も入り好調なようです。ロンドンの調査会社によれば、客単価の高い劇場が多く、2025年には世界第10位規模の興行収入になると予測されています。ほう。
次のステップは、海外の製作者を招くこと。ハリウッドとの共同制作が進行しており、一つは7世紀のアラビアものという鉄板テーマらしいです(笑)。サウジの魅力は、なんといっても砂漠。灰色から赤色まで様々な色の砂漠があり、アフガニスタンでも火星でも、あらゆる砂漠のイメージが実現できるそう!やはりセットよりリアルな砂漠が映画制作側には好まれるということです。さらに魅力的なのは資金面。サウジアラビア・フィルム・コミッションが映画製作者に最大40%のリベートを提供するという好条件になっているそうです。さすが産油国。
もっとも、ゼロから映画制作を始める苦労もあるそうです。まず近隣のヨルダン、エジプトなどとロケの誘致合戦や映画祭の日程重複などで揉めたりしているということ。また、大量のエキストラやフリーの長時間労働をするスタッフなどを探すのにも苦労しているようです。サウジ政府は、こういった問題解決のために、映画制作を教えるブートキャンプなどを計画したり、共同制作でハリウッドのやり方を学ばせるという方法を取っているそうです。かつての中国も共同制作でノウハウを学び、国内でメガ作品が作れるようになったとのこと。さらにサウジでは、国内のネオムという場所にデジタル産業に特化した都市を作り、メディアハブとする構想があるそうです。
映画制作への最も大きな障害は、やはり文化的、政治的に保守的な環境だとエコノミスト誌は述べています。同性愛が犯罪で女性はアバヤという黒の長衣で全身を隠すのが主流。イスラムの習慣やルールは、ハリウッドの人々にはハードルがまだまだ高いと見ています。サウジ当局は映画産業振興のために、ネオムのような「中国にとっての香港」のような特区を作って自らの主義主張を曲げる用意もあるようですが、どうでしょうかね。
サウジ側は行く行くは自国の言葉で自国の物語を映画にし、世界に売り込みたいたいようです。世界的ヒットになった「イカ・ゲーム」の成功で、視聴者の好みがより国際的になったと見ているようですが、エコノミスト誌はその目論見に関しては懐疑的です。
イスラム原理主義ですが、イランだと日本でもファンが多い芸術的映画作品はたくさんありますよね。そもそもイランは昔はもっと自由だったので、その時の影響もあるんでしょうかね。ただハリウッド的なスキャンダル満載テーマはなさそうです。
自由な芸術とサウジの超保守的イスラム社会がどのように調和するか注目ですね。村上作品はかなり無理かも(汗)。
それでは皆様よいお年をお迎えください。