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張子の虎かも?ロシア軍はなぜグタグタだったのか

ロシアのウクライナ侵略戦争が始まってもう2か月ですが、ロシア軍の力が思ったほどではなかったという感想が各所から漏れています。

そこで本日の記事はこちら。

www.newyorker.com

ニューヨーカー誌が、アメリカの元陸軍大佐で元米シリア特使のジョエル・レイバーン氏にロシア軍のパフォーマンスについてインタビューしています。この方現在はシンクタンク、New Americaの特別研究員だそうです。Q&A形式になっていますので、手短にまとめたいと思います。

 

質問1:ウクライナでなぜロシアが劣勢にみえるのでしょう?

2008年のグルジア侵攻以来、これまでかなり長い間、ロシアは規模の大きい戦闘をしていなかった。そのため隠れていた体系的、制度的弱点が見えてきた。グルジアの時と同様に、指揮系統の不統一、ロジスティクス的弱点、訓練不足でモチベーションが低く統率も不足した兵士たち、質の低い将校たち、非常にお粗末な作戦設計と計画能力などが上げられる。航空作戦と地上作戦の同期化を含む、軍内部、軍団間の統合も不十分だ。

 

ここ数年改革に乗り出しており、シリア、リビアコーカサスでの作戦で成果を出したと見えたが、振り返ればそれらは非常に小規模だった。各段に規模の大きい今の戦いで、弱点が明らかになっている。

 

質問2:ウクライナでの大きな失敗は?

作戦設計に最初から欠陥があり、「ウクライナを解体し政権を変える」という任務に対して小さすぎる侵攻軍だった。そのうえ十分な兵站も備えていなかった。

 

質問3:その失敗は単に能力がないためか、それとも判断を誤ったからなのか?

判断ミスもあるが、組織的にキャパがない。敵地の奥深くまで攻め込む作戦を支援する組織的能力がないだけでなく、あらゆる種類の補給と戦闘支援を部隊に与えることができないことがわかる。兵站が弱いのに、主攻略を4つの大きな軸に分けて地理的に広く分散させたのは大失敗だった。第一次大戦のように列車にすべてを載せて前線基地にまで輸送はできず、トラックにすべてを載せている。十分な数もなくウクライナに破壊されているので、前線部隊に必要な物資を送り続けられなかった。

 

質問4:ロジスティックス以外に強調すべきことは?

ロジスティックスや作戦設計の前に「軍の指揮官を計画や作戦遂行においてアシストするスタッフとはどのようなものか?」を問わねばならない。ウクライナでは、故障したトラックや整備不足の車両を、操作や整備の仕方を知らない部隊が運転していた。そのため多くの車両が故障して放置されていた。これにより、以前からメンテナンスを怠っていた部隊があったことが分かる。兵士に整備士としての訓練をしていなかったためだ。私は米陸軍のドイツの装甲部隊にいたが、週5日勤務のうち4日は車両の整備を行っていた。整備はそれほど必要とされるものだ。

 

ロシアは最新鋭の戦車を輸出しているが、ハリコフ、チェルニヒフ、キエフには冷戦時代の非近代的なかび臭い装甲戦闘車両で表れた。つまりロシアの軍需産業は自国の地上軍に近代的装備を与える代わりに輸出に向けられていたようだ。

 

質問4:軍事的近代化プロジェクトはウクライナとは異なる戦争を想定して行われた、とロシアは弁明することができますか?それとも失敗はもっと広い範囲に及ぶのでしょうか?

もっと広い範囲だ。ロシアは近代化プロジェクトで防空システム、精密誘導弾や弾道ミサイルを優先したが、すべて失敗している。トルコ製のドローンがロシアの防空システムの上空を通過し、空から攻撃することはあり得ない。近代化された物の品質もごまかしのようなものだ。毎年数百億ドルも近代化に費やしてきたのに15年経ってもT-72戦車の近代化、もしくは退役に手が回らないのは信じがたい。もっとも論理的な結論は、その予算の大部分が汚職で消えてしまったということだと思う。

 

質問5:ウクライナの抵抗の規模には皆驚いているが、ウクライナは誰も予測しなかった方法で反撃したのでしょうか?

それもあるだろう。2014年以来ウクライナはドンバスで能力を高めて戦ってきているから他の地域でもできるようになることはそれほど驚きではない。

 

質問6:あなたが思うにはもっと効果的な別の軍事計画が(ロシアに)あったと思われますか?

ノーだ。軍事作戦には主目的の設定が必要だ。誰もがキエフを主目的とし戦略集中を想定していたと思う。キエフへの前進以外のことは単に支援のためでなければならず、戦力の効率的な使用をするものと思っていた。侵略自体すべきではなかったが、やるつもりだったのなら、最高の装備と部隊、そして兵站能力をキエフに投入すべきだったのに明らかにそうしなかった。

 

質問7:その能力を使ってロシアがしたことは?

彼らは4つの異なる戦線に分割して能力を配置した。作戦はあまりにもひどかった。歩兵も偵察も空からの援護もなく、装甲部隊に道路をぶらぶら歩かせた。そしてウクライナ軍が対戦車兵器で一網打尽にした。精鋭の空挺部隊を連れてきて飛行場に向かって突撃させ、飛行場を解放して地上部隊を迅速投入するはずだったが、通信システムが故障して携帯電話に頼るようになった。

 

軍隊を近代化しようとして間違った人を雇うならまだしも、人も雇わず汚職で金を吸い取られるのは全く違う話だ。

 

ロシアの将校は、能力ではなくコネやひいきで昇進してきたのではないか。私は国務省でシリア関係に携わっていたときロシアの将校らと接した経験があるが、彼らの多くが今ウクライナに関わっている。シリアでは効果的な軍事作戦よりも、シリア政権や他の関係者から財産や収入を得ようとすることに重点を置いていたように見えた。彼らのシリアでの計画や意思決定も感心するようなものでもなく、それが今明白に表れていると思う。かれらは質の悪いリーダーシップと質の悪いロジスティックスを持つ質の悪い軍隊であり、非常に汚職の傾向が強いように見える。

 

質問8:ロシアはより東に重点を置き当初とは異なる計画的なアプローチを試みています。これがどのようなもので成功する確率があるかどうか教えてください。

彼らの損失は天文学的な数字だ。部隊も破滅的打撃を受けており、兵站も弱い。北部で敗北した部隊が突然東部や南東部で変身できるとは思えない。また19万人の侵攻軍の準備を考えれば、持続可能とは思えない。

 

質問9:もしロシアの軍隊が準備不足で目標を達成できなかったら、もっと極端なことをしでかすかもという意味で、心配はありますか?

 

結局ロシアはNATOのどの国とも対決をしなかった。NATOとの対決をエスカレートさせることは彼らにとっては自殺行為だ。彼らに自殺願望がないことを信じたい。もし侵略軍が代わりにポーランドに入っていたとしたら、全滅していたと思う。

 

 

ということで、専門家から見てもロシアはグダグダでこの先もうまくいかないようです。それならもっと極端なことをしでかすというのは、生物化学兵器使用とか核兵器使用になるんでは…と恐怖を感じるんですが、アメリカのロバート・ゲイツ前国防長官は確率は低いと述べてますね。

thehill.com

 

生物兵器は基本的に制御不能なのであり得ないと。化学兵器をロシアは以前に使用していますが、現時点では一部地域を除いて、ウクライナ兵がたくさんいるところはあまりなく、どこを化学兵器の軍事的標的とするのか分かりにくいと述べています。よって化学兵器の使用がそれによる国際的な影響に勝る、ロシアの戦略的利益になることは考えにくいとしています。また、化学兵器ウクライナの人々の意志を打ち砕くための手段でもありますが、すでにウクライナ人の意志は固く、化学兵器使用が彼らの意志をさらに固くする逆効果になるとも述べています。

 

核兵器使用は閾値を超えた場合の結果は重大ですが、ウクライナ東部で戦術核が使用されれば風は西から吹いているためロシアに放射能が達することになり、地理的なリスクを考えれば確率は低いとしています。

 

ゲイツさんの見方が正しいことを祈ります。ほんと、おそロシア…。