UK9報道部

良質な「コタツ記事」を目指します。海外ニュースがメイン。

キャンセルカルチャーの対象?社会派小説「アラバマ物語」、米で必読図書から除外に

f:id:UK9:20220128171744j:plain

ここ数年、キャンセルカルチャーという言葉をよく耳にします。

ウィキペディアによりますと、「主に著名人を対象に過去の言動を告発し、それに批判が殺到することで、職や社会的地位を失わしめる社会現象や社会運動」と解説されております。だれかの過去を引っ張り出してきて糾弾することで、その人を社会から消す、というなかなか恐ろしいブームです(汗)。

 

発祥はアメリカなんじゃないかと思いますが、欧米で広まり日本でも東京五輪の関係者などの問題などで炎上しましたね。実は私はこれに関してはすごく懸念していまして、いろいろ以前から書いています。最初に書いたのはこの記事だったかなあ。

newsphere.jp

はてなブックマークで翻訳が下手とのご意見をいただきましたが、結構議論の種にしていただいたと思います(記事は翻訳を朝始めてその日のうちに納品してまして、当時は機械翻訳も使っていなかったため荒いことは確かです。悪しからず…)。若者は他人の非を見つけて拡散することで世界が変わると思っているようだけど、それって違うから、というオバマ元大統領の意見。まさに石を投げるだけでは建設的ではないということです。

 

続いて書いたのがこれかな?

newsphere.jp

BLMが盛り上がってキャンセルカルチャーが歴史上の人物にまで飛び火してしまったというニュースでした。実はこれは写真の女性の胸のポチに注目が集まって一部PVを稼いでしまったという不本意なネタではありました(笑)。しかし負の歴史というのは世界にたくさんあるんですが、破壊で葬り去ろうとする動きはちょっと日本では考えられないかと…。下手すると歴史の書き換えにもなりそうです。

 

お次はこれ。

newsphere.jp

こちらはアイビーリーグの名門大に入った元脱北者の女性が見たアメリカのリベラルの闇についてです。学生が自国の歴史を批判し、過度に政治的正しさを求めており、それに疑問を呈すことさえ許されない状況だと。これじゃ北朝鮮と同レベルじゃないかという率直な感想でした。こういった内容は、実はアメリカの保守系メディアがセンセーショナルに取り上げるんで、全部を思い切り信じることはできないと思いますが、逆の意見を言えない状況になっていることは大きな問題だと思います。

 

前振りが最高に長くなってしまいましたが、いよいよ本題。

www.seattletimes.com

ワシントン州マカルティオ教育委員会は、有色人種の生徒たちへの悪影響を懸念し、9年生(日本の中3?)の必読図書から1960年に出版された「アラバマ物語(原題:To Kill a Moking Bird)」外すことを決めたということです。

 

この作品は、レイプの濡れ衣を着せられた黒人男性を弁護する白人弁護士の活躍を描いたもので、ニューヨーク・タイムズ紙の読者が選ぶ過去125年間のベストブックに選ばれています。ネットで検索すると、必読図書にはワシントン州以外でもたくさん入っている感じですね。私も原文で読んだことがあるのですが、非常に悲しくも心に響く名作でした。映画にもなってますがそちらは見たことはないです。

 

もっとも昔の物語ですので差別的な内容や言葉がかなり含まれており、出版以来人気作品であり続けている反面、物議を醸すこともしばしばだったそうです。米図書館協会が毎年発表する「最も挑戦的な本」のリストにほぼ毎回ランクインしており、人種差別に関する理由で異議申し立てが頻繁にあったようです。

 

マカルティオ教育委員会が必読書から外した理由は、古典的な小説に見られる人種差別の懸念からだということ。もっとも禁書になった訳ではなく、教師が自発的に教えることは可能だそうです。

 

教育委員会のメンバーの一人は、本は非常に難しいテーマを含んでいるため、教師側も指導しにくいかもしれないとしています。また、人種差別を扱うだけでなく、差別が容認されていた時代を反映しており、ヒーローとして皆が記憶している弁護士も、自分の周りの人種差別に対してはある種寛容だったと述べています。本の中には、差別用語が有色人種に与える苦痛という視点もない、と厳しい意見です。

 

教育委員長は、自分の子供たちがこの作品を読んだときには、今議論されているような問題は全く出てこなかったとしつつも、今回の判断は最終的に委員会メンバーが生徒にとって最善と考えた結果だとしています。

 

この決定、やはり最近のBLMやポリティカルコレクトネスを意識したものなんでしょう。しかし個人的には過去に書かれた作品が今の価値観にふさわしくないからパスしようというのは賛成できません。黒人の子供たちにはつらく怒りを感じる内容なのかもしれませんが、この本に書かれていることが当時のリアルであり限界であったと知ることも大事ではないでしょうか。ここからさらなる公平を目指し進んでいく材料にしようと教師が指導することもできると思います。

 

ひどい、汚い言葉が多く子供たちの気持ちを傷つけるという意見もありますが、今の子供たちはネットやゲームでもっとひどい表現に出くわしている気も…。その辺は私はアメリカ人ではないので分かる人に聞いてみたいところです。

 

別の記事は、この本が白人の視点から書かれ(著者は白人です)、白人を救世主としたことが問題だという意見でした。白人の視点だから不適切=加害者が加害者の視点から差別を語るのはダメ、という考えが支持されるなら、同様に被害者が被害者の視点だけで物を見ていてもだめなんじゃないでしょうか。この記事では、解決策として黒人作家の作品も入れて人種問題を教えてはどうかと述べています。私もこれはより建設的だと思い賛成ですね。

 

最後になりましたが、この本は差別をする側に罪の意識を経た正義感をもたらすという点では必読だと思います。気分は白人ヒーローになったとしても、白人の学生は読むべきではないでしょうか。シアトル・タイムズに書かれていたニューヨーク・タイムズの読者の声をご紹介して終わりにしたいと思います。

 

私は小さく閉鎖的な西部の白人プロテスタントの町で育ちました。この本は私に人種差別の残酷さを初めて教えてくれたのです。この本が私の人生を変え、私を社会正義を大切にする人間にしてくれたのだと信じています。